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けんきょうじゅなん

剣侠受難

国枝 史郎

「東京日日新聞」1926(大正15)年5月28日~11月14日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,479 字 · 394 页

青空文庫

じっと聞きすましたものである。「どっちみちうっちゃって置かれない、そうだ!」というと飛びあがり、陣幕の中へ駈け込んだ。

引き出したのはスペイン製の野砲、ガラガラと東北へ押し向けた。

「さあ来てみろ、防いでみせる! 十発も放したらみな殺しだ!」

月光にギラギラ輝くのは、上向いた野砲の筒口である。槓桿にかけた天草の手が、かすかにかすかにふるえるのは、強敵と睨んだがためだろう? だが何にも聞こえないではないか!

いやさすがは時行である。その聴覚には狂いがなかった。

ここは天草の陣営から、半里離れた峠道、今一隊の異風行列が、二挺の駕籠を前後に包み、十本のたいまつで道を照らし、粛々として歩いて来た。そのかずおよそ一百人、だが扮装は別々である。儒者風の者、鷹匠風の者、卜笙者風の者、僧体の者、神主風の者、鍛冶風の者、瓦工、陶工、人相見、石工、仏工、医師風の者、しかしいずれも一様に、天狗の面をかぶっている。ある者は槍を持ち、ある者は弓を持ち、ある者は鉄砲をかついでいる。豪奢を極めた駕籠である。その一挺は女駕籠。と行く手に森があった。行列がそこへさしかかった時、駕籠の中から声がした。