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けんきょうじゅなん

剣侠受難

国枝 史郎

「東京日日新聞」1926(大正15)年5月28日~11月14日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,479 字 · 394 页

青空文庫

「いいえ、そんな事ありません」君尾の声はりんとなった。

「いいえ、そんなことありませんの!」信じきっている調子である。「ねえあなた」といい続けた。「お逢いになったらいってちょうだい、君尾が待っておりますとね。そうしてここにおりますとね……ノロマのノロマの三吉や! 捉えてごらん、さあ妾を」

築山の向こうへ駆けおりた。とまたヒョッコリ現われた。「あのね」と忠三へ話しかけた。「楽しい時もありますの。ええそうよ、妾にだってね。古塚を掘りに行く時はね。妾もお供を致しますの。ノロマのノロマの三吉や!」

また向こうへ駈けおりてしまった。

きびすを返した早引の忠三、塀まで来ると縄を引く。ピョイと飛び超すと縄をたぐる。ふところへ納めて気がついた。

「どうだ野郎、まだいるか」木蔭をのぞいたが文三はいない。「ふふん、眼ざめて飛んだとみえる。よかろう、達者で永生きをしろ。そうして死ぬまで探すがいい。君尾様、君尾様、君尾様とな! 水戸家の御曹司光圀様、明の亡命大学者、朱舜水先生に守られていたでは、どんな野郎にだって歯は立つめえ」

やがて帰って来た南蛮屋。

「旦那、遅いじゃアありませんか」