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けんきょうじゅなん
剣侠受難
国枝 史郎
「東京日日新聞」1926(大正15)年5月28日~11月14日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,479 字 · 394 页
流浪の旅へ
地上にうずくまった老人が、膝頭へ額をあてている。枯れ木がたばねて捨ててあるようだ。
その時走って来る足音がした。と、やみから声がかかった。
「将右衛門めにございます」
流浪の旅へ
「将右衛門めにございます」やみの中から声がした。富士見の将右衛門が来たのである。滝の微光に半身をぼかし、ひざまずいている人影がある。それが富士見の将右衛門であった。
うずくまっていた老人が、物憂そうに顔をあげた。
「ああ将右衛門か、何しに来たな?」
「いやなことが起こりましてございます」
「そうか」といったまま老人は、依然地上にうずくまっていた。「人の世のことはみんないやだ」
「あなた様にもご存じの、天草時行が参りました」
「ああ天草がな? 裏切り者がな。……わしとはちがった意味の裏切り者」
「江戸の浪人、由井の正雪、一味の者が参りました」
「ああそうか、なんのために?」
「唐櫃を渡せと申します」
「ああそうか、唐櫃をな? なんの必要があるのだろう?」
「宝がほしいそうでございます」
「宝? なるほど、宝をな。……そうだ宝には相違ない。……なぜあんな宝がほしいのだろう?」
「誤解しているようでございます」