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けんきょうじゅなん
剣侠受難
国枝 史郎
「東京日日新聞」1926(大正15)年5月28日~11月14日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,479 字 · 394 页
「中身をなんだと思っているのだろう?」
「金銀珠玉、異国の珍器」
「唐櫃はどうも渡せないよ」
「はい、渡すことはできません」
「そういうがいい、渡せないとな」
「とても承知は致しますまい」
「無理に取ろうとしているのか?」
「兵をひきいて参りました」
「兵を?」とはじめて老人の声が、すさまじい感情を現わした。
「戦いか! 恐ろしい! 流血か! おそろしい! おれはいやだ! おれはいやだ!」
「私もいやでございます」
「それはどうしてもやめなければならない!」
「いかがでございましょう。時行、正雪に、中身をあからさまに見せましたら?」
「ならぬ!」と威厳のある老人の声! 「わしはいいのだ、わしなどはな! だがあの方を辱めてはならぬ」
そこで将右衛門はだまってしまった。ひざまずいたままで動かない。うなだれて考えている。うずくまったままの老人の姿、やはりじっと動かない。
と、将右衛門やがていった。「どうぞご用意あそばしませ」
「用意?」と老人は聞き返した。
「なんの用意だ、将右衛門?」
「流浪いたさねばなりますまい」
「引き払うのか、富士見の郷を?」
「ほかに手段はございません」将右衛門の声は沈痛であった。