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けんなんじょなん

剣難女難

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页

青空文庫

伝吉は二人の心を察し抜いているが、いつまでもこうしてはいられない、互いの身である。

その朝、由良の伝吉は淋しく、もの改まった。

「では新九郎様、いろいろお話し合い致した通り、ひとまずわっしは、千浪様をお連れして、福知山へ帰ることに致します。どうか貴方様には、後々へお気をひかれることなく、一念、ご修行に出精をお頼み申します。伝吉めも、こればかりが願いでございます」

「おお、伝吉も千浪殿も、どうかその儀は安心いたしてくれ。今は昔の新九郎ではない」

「それから、この一封の路銀、ならびにこの一腰は、どちらも正木作左衛門様からの、お心こめたお餞別でございます」

「忝けない。不埒者の新九郎へ、かほどまでのお心づくし、徒やおろそかにお受けは致さぬ。きっと鐘巻自斎を打ち込んで見せねば、故郷の土は生きて踏まぬと、お言づて致してくれい」

伝吉が前へ置いた、来国俊の一刀を押しいただいて、早くも、情愛の紲を思い断って、果知れぬ旅出の支度にかかる。

うら悲しくもあり、嬉しくもあり、千浪の胸は、不思議な涙と興奮に揺れ返っていた。あれこれと側から心づける何かの用意も、我が手でしながら、吾にもあらぬ心地。