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けんなんじょなん

剣難女難

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页

青空文庫

三

それとは反対に、まんまと繊手の術中におとされた深見重左は、憤恚の形相を黒装束の者どもに向けて、

「まだ間があるッ、その暇に此奴らを片っ端から血の池へ並べてしまえ!」

と喝令して、自分も細竹の杖を投げ捨てざま、銀造りの強刀をギラリと抜いて、

「女ッ動くまいッ!」

と、まず御方の真ッ向へさっと一太刀見舞って行った。

「無礼しやるなッ」

丹花の唇を洩れた御方の威ある声音。カラリッと受けはずした懐剣の鮮やかさ。

「新九郎も油断しやるなッ」

「おおッ」

躍りかかった重左の横わき、新九郎の小野派鍛えの太刀風もあなどりがたく切りつけた。同時に老女の水瀬、侍女の懐剣も、御方の身を護って重左を防いだ。一方では群鴉に似たる黒装束が再び堰を切ってこんがらとせいたかを対手に火を降らして斬り結ぶ。

と――もうそこへ乗りつけて来た騎馬与力と同心三名が、この態を見るより早く、

「それッ、無頼者を引ッ縛れい!」

と声を励まして二、三十名の捕手をドッと乱入させた。承応の江戸中侠客狩り以来、いまだに残るところの武家侠客や町奴の輩で、横行見るに忍びぬ者がある時は、何時何時でも「御用」を掛けるのが町奉行施政の方針となっていた。