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けんなんじょなん

剣難女難

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页

青空文庫

五

という口上。

「いや彼は松平家の臣正木作左衛門を暗殺して立ち退いた奸賊、当方で処分いたすに不審はないはずである。しかし仇討の当日お立会いなさるのはご勝手なれど引渡すなどとは以ての外」

松平家は再三の使者をみな手きびしく追い返した。

しかし桔梗河原この方一層傲慢の度が高まっている京極家が、そのまま指を咥えて引っ込む筈がない。

「よし、では武力にかけても取返してお見せ申すぞ」

と威嚇を試みれば、売り言葉に買い言葉、

「おお弓矢にかけても渡すことは成り申さん」

と松平家でもまた断乎として最後の使者を突ッ刎ねた。

交渉険悪になって、既に昨夜は両家の間に、血の雨が降るかとさえ思われたが、老中の耳に入って調停され、とにかく一時事なきを得たのであった。

ところへ、今日また改めて、溝口伊予と老中秋元喬朝の微行の訪れはそも何事? しかも、今玄蕃を討たせてしまおうと用意をしかけた折も折。――忠房は舌うちをして客殿へ入った。

そこで主客三名の談合数刻。やがて、忠房は面白からぬ気色で元の書院へ帰って来た。そして家臣の者へ苦々しい語気で、

「残念ではあるが是非がない、大月玄蕃めを、一時溝口伊予へ渡してやれ!」