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けんなんじょなん
剣難女難
吉川 英治
「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页
七
「今年はあの地方の飢饉とやらで、いやはや散々な悪首尾でござりました」
と甲賀房、河内房の二人が、審さに実況を告げて、その後のこと、
「して大先生の方の受持はどうでござりますな」
「されば、ほかの所はやはり思うように参らぬが、唯一軒、ここという金のなる木があるのでな……まずザッとこれ程じゃ」
と笈の中の包みを開いて、五ツの封金を並べて見せた。
「え、御方一人で五百両のご寄進でござるか」
「さればよ、覚明の腕で取るのじゃ……」
と魁偉な容貌に、いやらしい笑みをニタリと見せた。二人の弟子はすぐに、
「あああ、さては強請ったな……」
と胸に頷き合った。
光子の御方が、京都綾小路の有名な剣客、長谷川宗喜から、小太刀の妙髄をうけたと評判のあった頃、ある行き懸りから大円房覚明の道場へ手合せに来たことがある。その時、覚明は例の不可思議な戒刀の秘術をふって、光子の御方を悶絶させた。のみならず、後の介抱に事寄せて、御方の体を自由にした。ということを、この二人だけが薄々知っていた。
「覚明様、妾でござります。それへ参りましても大事はござりませぬか」
そこへ不意に、御方の声が障子の外でしたので、覚明は慌てて金を隠し、居ざんまいを直した。