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けんなんじょなん
剣難女難
吉川 英治
「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页
二
「エーイッ」
突、自斎の怖るべき気当が、あやうく新九郎の総身をふわりと泛かし立てるように響いた。同時に小野門の大半が居並んでいるこの大道場は、人なき如く、シーンと厳粛な空気に凍ってしまった。
「ヤッ! えやッ」
と新九郎が必死の気当返し、ここに自斎を倒さなければ、何の面目、何の生甲斐、何の男ぞ! という気組み。
と――鐘巻自斎の木剣の尖が、一分、二分とあたかも月の上るくらいな静けさ遅さで、正眼からそろそろと上段へ変ってゆく。
「行くな――」
と誰の眼にも怖ろしい予察が泛いた。
二
真ッ向、自斎の木剣が兵字に振りかぶられた。
円を描いた双手のうちから、いよいよ、々たる眼光が、新九郎の一点にそそがれている。と鐘巻自斎は心の裡で、
「ああ研けば光る名玉――」
思わず舌を巻いて驚嘆したのである。けれど自斎がこう考えるほど、彼には余裕があって、新九郎には余裕がない。やはり修行の差は争われぬもので、彼の五体は大山の前の小石の如くであった。しかし、大岳のような自斎の眼から見て、唯一ツの光りが歴々とあったというのは、怖ろしい天才の閃き! それであった。
「はッ……」
その時、思わず新九郎が洩らした気息の乱れ、木剣の顫えも見えて来た。