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けんなんじょなん

剣難女難

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页

青空文庫

四

その男は、余人でもない、由良の伝吉であった――正木作左衛門から託された一言と、餞別の品とを、春日新九郎に渡したい一念で、丹後から京都路へ追いかけて来たが、八方の街道口、宿場、立場へ頼んで、手分けをして尋ねている甲斐もなく、ついに、今もって巡り会うことができない。

その筈、新九郎は途中から、思いがけない波瀾に遭遇して、まだ、京都の土は一足も踏んでいなかったのだ。

しかし、自分が先を越しているとは、まさかに思いつかない伝吉は、今日は大津から小浜街道へ伸して見ようかどうしようかと、捜索の方向に迷っていたところを、フイと、眼先を掠っていったのが忘れもしない、怨敵鐘巻自斎の姿であるから、われ知らず刎ね上がった。

「野郎、こんな所に?」

と、伝吉は何の思慮もなくスタスタ後を尾けだした。しかし、今となっては、どこまでも春日新九郎と、尋常の勝敗を決しさせるべき大切な対手である。元より、迂濶な手出しをする気はないのだが、この場合、指をくわえて、彼の姿を見のがすのはいかにもむざむざな気がしたのである。

宿はずれを急いで、ちょうど、柳ヶ崎の間の松原へさしかかった時、

「もし、ちょっとお待ちなすっておくんなさい」