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けんなんじょなん
剣難女難
吉川 英治
「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页
四
ギイーと裏門が二尺ばかり開いた。
「お待ち兼ねでござるぞ……」
低い声で中の侍が迎え入れた。二人は目礼だけで案内の後から奥へ従いて行った。
「その儘で苦しゅうないという殿の仰せ、ずッと書院の方へお通り召され」
「はッ」
二人は恐懼しながら、近侍に従いて長廊下を巡って来た。お錠口へ来ると、しばらくここでお待ちをと言ったまま外に残されていた。
風流結構を極めた下屋敷に立って、千浪も重蔵も垢じみた鼠木綿が吾ながら見すぼらしく思えた。そのうち、ふと横手廊下づきの一部屋鉄窓造りの座敷牢らしい所から物音がしたので、フイと、のぞいて見ると薄暗い中に一人の武士が縛められて唸いている。
「おおありゃ大月玄蕃じゃ」
「殿様のお情け、仇を討たせてくれる思し召しでござりましょう」
「そして、これ見て安心せいと言わんばかりに、ここへ待たせておかれたものか……ともかく千浪殿、本懐を遂げる日は目前に迫りましたぞ」
欣び合っていると、前の侍が、再びお杉戸口を明けて奥の書院へ案内した。
松平忠房、もう一間に着座して待ち兼ねていた。下座遠く手をつかえた二人を見て、仇討詮議の労苦をねぎらわれ、また、重蔵には特に桔梗河原での奇禍を心から慰藉された。