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けんなんじょなん

剣難女難

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页

青空文庫

六

「お案じあるな!」

と新九郎も腰なる秋水をギラリと抜いて、例の滅多打ちにふり廻した。一人二人の技の争いと違って多勢を対手に廻すと、この滅多打ちは意外な奇功を奏した。彼はたちまち近寄った二、三人を迅速に叩き伏せた。

すると梢の上に身を忍ばせていた賊の一人が、頃合いを計って樹上からばらりと投げたのは蜘蛛手取りの縄羂新九郎の頭からかぶせてグッと手繰ったので、彼はアッと叫んでと仰向けになった――そこを得たりと、乗しかかった荒くれどもが、たちまち新九郎の両手を後ろへ廻して、鞠の如くに引ッくくってしまった。

「あッ、しまった!」

と一方で縦横無尽の怪腕をほしいままにしていた戸川志摩は、新九郎が縄羂の計に墜ちたと見ると、すぐ自分も太刀を納めて、

「さッ、縛れッ。この上は拙者も共に雨龍太郎の面前へ案内致せ」

と両手を自身後ろへ廻して、威猛高に云い放った。

六

「歩けッ亡者め、もっと早く歩かねえか」

と二人の縄尻を持った雨龍の手下どもは、地獄へ凱歌を上げる獄卒のように、新九郎と戸川志摩を引ッ立って間道から間道を辿り、やがて蘭谷の豪族雨龍太郎の山荘の石門を潜った。

鬱蒼たる樹木の路が、石門からやや小半丁も続いた所に、自然石の石垣築で小大名などは及びもつかぬ古い鉄門がある。