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けんなんじょなん

剣難女難

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页

青空文庫

五

かと――

五

「そのご返辞を聞いて、俺たちは百人力の気が致します。話が決まったら、町奴に湿ッぽいなあ禁物、景気よく飲んで、派手に一つ騒ごうじゃありませんか」

せいたか藤兵衛は手を叩いて、酒の代りを呼び、女たちにいいつけて、しきりに新九郎へ盃をすすめた。けれど彼は生来の酒嫌い、またこうした遊蕩な場所にも馴れず、破門の一条も胸につかえているので、心の暗鬱が一層それを親しませなかった。と、顔色を読んだこんがら重兵衛は、

「世間は広うございますぜ、小野派ばかりが剣術の司でもあるめえし、もっと腹を大きくお持ちなせえ。そして稀にゃ男らしく、グンと酒でも仰飲らなけりゃ、生身が続くもんじゃありません」

「それはそうだ!」

新九郎の境遇が、町奴一流の言葉を不思議に真理の如く聞いた。

「拙者は余り処世にも気の持ちようにも狭量すぎた。この人達の伊達寛達に学ぶところがある」

と思い直して、二つ三つ盃を唇につけだした。

ここに初めて、酒の味を知った新九郎に、不思議や酒の味は甘かった。芳醇な薫りは昼の無念を掻き消し、五臓に沁みてゆく快感は、再び彼を晴々とさせた。新九郎は怖々ながら、盃の数を重ねて、