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けんなんじょなん

剣難女難

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页

青空文庫

四

四

深見重左は、刎頸の交わりをゆるしていた臂の久八が、その客分投げ槍の小六と共に、新九郎等のために殺害されたと聞いた時、既に、彼を狙うの殺意は、充分胸に醸されていた。

「見つけ次第に、あの青二才を打っ斬ってしまえ」

と配下の者に言い渡しておいたが、上野の丘ではかえって散々な目に遭い、溜池ではあの失策、いつか山手組の悪名は町に高く、一本立ちの素浪人、御曹子の名に箔をつけて行くばかりとなった。

今は折よく、日本橋の袂で、重左自身が彼の姿を見つけたのであったが、場所がら人目も多いので、しばらく手を引いている間に、思いがけない鳶に油揚をさらわれた形となったのだった。

夜の九刻ごろ、押田仙十郎は宙を飛んで氷川下の屋敷へ帰ってきた。すぐ奥へ通って、吉左右を待ちかねている重左の前へ出た。

「おう仙十郎、ご苦労であった、シテ様子は?」

「しかと見届けて参りました。やはりお察しの通り、あの女中どもは、菖蒲の寮の召使で、一人は水瀬と申す老女でござりました」

「む、案の定だな」

重左は、麻のような髯をしごきながら、底光りのする眼を晃かした。

「そして、新九郎の駕もたしかに寮へ入ったかの」