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けんなんじょなん

剣難女難

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页

青空文庫

六

何分ご指導のほどを……」

と丁寧に云うと、

「ではこう尾いておいでなさい」

とやっと道場へ案内される。そこにもやはり一人の門弟も試合っていない。ただ見る檜八間四面の磨き抜いた道場に、槍、木剣、薙刀が厳しく掛け並べてある外に、他の道場ではちょっと見馴れない金剛杖と無反の戒刀木太刀が、二段ばかりずらりと掛けてあるのが物々しい。

とこうする間に、正面の席の左右へ銀燭が据え置かれると、叱ッ叱ッという警蹕の声と共に、開け放たれた襖の奥からゾロゾロと六、七名の柿色の修験者が現われた。

各※(二の字点、1-2-22)両手をついて寂としていると、悠々然と上座の褥へついて威風四辺を払った人物は、赭顔の円頂に兜巾を頂き、紫金襴の篠懸に白絖の大口を穿って、銀造りの戒刀を横たえたまま、どっかと胡坐して、炬の如き眼光鋭く、じろりと新九郎を睥睨した様子、これなん大円房覚明と見えた。

六

「ああお訪ね下された修行の方は貴殿でござるか、身が聖護院の印可をうけた、当道場の主覚明でござる」

と大円房は尊大に言葉を下した。

「これは初めて御意を得申す。拙者は丹波浪人の春日新九郎と申す若年者、願わくば一手ご指南に預かりとう存ずる」