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けんなんじょなん

剣難女難

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页

青空文庫

二

とにかく、この状着次第に出府してくれとのこと、用向の判断はつかないが、事態ただごとならぬ様子だけは文面に溢れている。

「不思議じゃの……」

自斎は寛々たる例の姿で、道中を急ぎながら考えた。

「ことに依ると、富田五郎左衛門先生の居所でも知れたというのかな……足かけ七年山と言わず、峰と言わずお行方を尋ねあぐんだ五郎左衛門先生に、一目お逢い致すことが出来れば、富田流三剣の一秘刀、永い間求めている謎が解けるのだが……今度のこの便りであってくれればいいが」

思いきや、その想像は外れていた。

彼が江戸に入った足で、すぐ小野派宗家の道場を訪ずれて、忠雄から聞いたところは、実に京極家の剣客として駒場野の御前試合に出よとの将軍家内命であった。

「して、対手方は?」

自斎はまッ先にそれを訊ねた。

「その昔、当道場にもしばらく居たことのある春日新九郎と申すもの」

「ウム、果たして彼でござったか!」

膝を打って快然と、

「余人とのことならば、たとえ将軍家のお声であろうと仰せは受けぬが、その新九郎となれば異存はござらぬ。確とお引きうけ仕った」

自斎江戸入りの知らせをうけて、京極家では賓客の礼をとって迎えの行列を出した。