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けんなんじょなん

剣難女難

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页

青空文庫

三

五十両のかたは、私がこのお方に貸すとするから、綺麗に勝負して見たらよいじゃないか」

「え、姐御が、御曹子へ貸すって云うのか」

「あい、それで不足はないだろう」

帯の間から、器用にポンと投げ出した五十両の封金。

「勝負」

俄に活気づいて、胴元が壺を開けると、賽は皮肉、押売りされた新九郎の方へ目が出て、彼はホッと危地を遁れた。

「やや今の女は? ……」

そこで初めて、吾にかえったように、あたりを見たが、不思議な阿娜女は、いつの間にやら姿を消して、もうその部屋にはいなかった。

三

百両の金を掴んで、紀州部屋を出た新九郎が、今の女にそれを返す心算で、宵闇の屋敷小路を急ぎ足に来ると、

「もし、私を尋ねておいでなさるんじゃありませんか」

と、佇立んでいた頭巾の女が、薄暗い物蔭から、彼の姿を呼びとめた。

「お」

振り顧って見ると、紛れもない今の阿娜者。新九郎は礼と共に百両の金を差し出しながら、

「見ず知らずの此方に、よく気前よく貸してくれた。元金の五十両は今の返し、後五十両は目の出た金、どうか受け取ってもらいたい」

「おや、改まったご挨拶で痛み入りますね、だが新九郎さん……」

「おお拙者をご存じの方だったか」