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けんなんじょなん

剣難女難

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页

青空文庫

と一人の小坊主が縁先へ駈けてきて、二人の静かな住いを驚かした。

「えッ早打ち? ――」

と千浪も重蔵も縁先へ走り出した。そこへ半病人になった由良の伝吉が、駕屋の背を借りて来たが、来るより早くベタリとなった。

「おお! 伝吉ではないか」

と二人は眼をみはる。

「重蔵様ッ……千浪様。ざッ残念でごぜえます」

と悲調を帯びた伝吉の一句に、千浪の胸は聞かないうちから早鐘をついた。

千浪にとって、涙に暮れ、涙に明けた一月あまり――ちょうど作左衛門の三十五日に、如意輪寺の月巣庵から、跛行をひいた春日重蔵と、旅装いの千浪とが、住職その他に別れを告げて出て行った。

弟の新九郎には鐘巻自斎を打ち込むまでの大任がある。足こそままにならぬが、千浪に助太刀して大月玄蕃を討つくらいなことは、我とて出来ないことではないと、重蔵は奮然と、再び昔の武芸者に返って庵を立つのである。

その間際に、あらましの事情を書いて、新九郎へ飛脚したのが、生不動与兵衛の家に着いたあの書状であった。

城下端れには、由良の伝吉が、数多の乾分を連れて見送りに出ていた。双方、僅かな言葉のうちに万感をこめて別れを惜しんでいると、騎馬を飛ばして来た一人の武士が、ヒラリとそこへ降りて慇懃にこう云った。