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けんなんじょなん

剣難女難

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页

青空文庫

「うるせえな、駄目だって云うのに!」

「そこを曲げてこの通りに頼み申す。火急のことゆえ夕刻までは待ちかねるのじゃ、是非何とか取り計らってもらいたい」

「やかましいやいッ、この物貰いめ!」

「何?」

とかなり気の練れている重蔵も、この口汚い罵りように、思わず拳を握って天蓋のうちから睨みつけた。と、あたりの弥次馬から先にどっと気勢を揚げて、

「あ、喧嘩喧嘩」

「虚無僧と喧嘩だッ」

とばかり凄まじい雰囲気をつつんで来たので、さなきだに鼻ッ張りの強い若者は、浴衣の片袖を捲くり上げ、二の腕の入墨を覗かせながら啖呵を浴びせて来た。

「何がどうしたと、やいッ、物貰いだから物貰いと云ったに不思議があるか」

「黙れ、云わしておけば口の減らぬ素町人」

「やいやいやいッ、大きなことを云うない、大きなことを! 素町人たあ誰に向って吐かしゃあがった。こう見えても只の小屋人足たあ違って、浅草笊組の大親分臂の久八の身内で風鈴の源七とか何とか云われる男だ。物貰い風情の虚無僧に素町人と云われちゃ勘弁ならねえ、かアッ、これでも食らやがれ」

とばかり不意に源七が拳を固めて打って来たのを、危うく片身流しに引ッぱずした重蔵は、刹那の勢いに吾れ知らず右手の尺八をキッとふりあげた。