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けんなんじょなん

剣難女難

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页

青空文庫

夢寐に見る雄敵の現れ

一

この上は一刻も早く、生不動の与兵衛に無事な顔を見せようと勇み心地に寮を出た新九郎は、朝まだき大川端を急いでくると、ちょうど矢の倉手前、両国の渡し舟に近い河岸ぶちに、悄然と立ち竦んでいる二人づれの虚無僧を見た。

なにが故か、二人の虚無僧はじっと大川の水をみつめていたが、天蓋のうちでハラハラと涙流したものの如く、そッと涙を拭い、二人とも同じように川に向って合掌した。そのすぐ傍をすり抜けた者は云うまでもなく新九郎であった。

夢寐に見る雄敵の現れ

一

この家から、早立ちの客を二人送り出して後、生不動の乾分たちは、毎朝の吉例どおり、荒格子をきッきと研いたり、水を打ったり、間口十一間へ浪目に箒の痕を立てて行ったり、目まぐるしく、勇み稼業の表を浄めだした。

「なア安、昨夜泊った虚無僧の一人の方は、まるで岩井半四郎そのままじゃねえか。世の中にゃあんないい男もあるものかしら」

「べらぼうめ、だから人様が汝のことをのん竹と云うんだ。あれは正真正銘の女じゃねえか」

「女にしても上美女だ。すると一緒にいたのが良人だろうか、あんな跛行と連れ添っているたあ何てえこッた。俺に白羽の矢を立てりゃ、何時でも博奕打ちの足なんか洗ってしまって虚無僧になるものをなア」