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けんなんじょなん
剣難女難
吉川 英治
「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页
二
あわや新九郎の皮肉はその一下に寸裂されるかと見えたが――途端に、
「わッ――」
という駕方の喊声。そこへ雪崩押しに突ッかけて来たのは、月光にきらめく鏤金螺鈿の女乗物。――一足遅く追い着いてきた菖蒲の寮の御方が女だてらの喧嘩買いと見えた。
二
彼方ではこんがらにせいたかと残る六人の黒装束が必死の太刀撃ち。ここでは重左と新九郎が龍攘虎搏のまッ最中、男でさえも近寄りがたい閃々たる剣火の旋風へ、意外や、時ならぬ落花とばかり降り込んで、駕の裡から美しい姿を抜け出させ、きっとその前へ水際立たせた寮の御方。
続いて後の二挺からも、老女の水瀬と侍女が走りだして、更に、そのたけた艶やかさを引ッ立てる根締のように、御方の裳に添って油断なく懐剣の柄を握りしめる。
「おお皆の者、無用な血を浴びて可惜命を棄てまいぞ、まずその太刀を双方とも退いたがよい。強って退くの退かぬという者あらば妾が対手じゃ!」
御方の真白い手に、懐剣の緋房がハラリと解ける。声はりんりんと金鈴を振るに似て、威はあだかも従者に君臨するような言葉づかい。
「あ、何者? ――」
と、さすが向う見ずな、山手組もせいたかも、天降った天女の高飛車に度胆を抜かれて、退くともなく御方の駕の左右にさっと引分けられてしまった。