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けんなんじょなん

剣難女難

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页

青空文庫

四

が――新九郎の一点の良心は、恐らく彼をして心まで楽しませなかったに相違ない。

まさか、外濠の薄ら寒い夜を、寂しげに吹き迷っている尺八の主が、兄の重蔵と千浪ではなかったろうが、つねには眠っている良心が、その時、何らかの暗示に呼び醒まされて、強い苛責をうけずにいなかったのである。

四

「どうだったこんがら、兄哥の居所は、どこかで見当がついたかえ」

「さッぱり様子が知れねえから不思議よ。がまあ、上がってからゆっくりの相談としよう……」

菖蒲の寮の裏口、――そこはこの頃、新九郎を中心として、こんがらやせいたかその他雑多な輩が出入りするため、人目立たぬように、特に新しく設けた潜り戸だった。

さりとは、光子の御方ももの好き過ぎるが、京都にいた頃から、自体、そうした遊侠気分、町奴などに伍するようなことが好きな性質とて、女ばかりな寮の一廓を荒くれ男の賭場同様にしても、格別突飛なこととも思わぬらしい。

で、寮の片隅に、母屋とかけ離れた別の一棟、そこが裏口から出入り自由となっている。今も外から帰って来たこんがらの重兵衛は、待ち兼ねていたせいたかと一言二言云い交わしながらその家の中へ上がり、さて歩き疲れにがっかりした態で、対い合いに腕こまぬく。