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けんなんじょなん

剣難女難

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页

青空文庫

「見ず知らずのお前さんに、私ゃ何も聞くようなことはございませんよ。それに何だね、話ぐらいなことに体を貸せの何のと……、ちぇッ、いけ好かない人だ」

「不意に申したのでは、お腹立ちも尤もじゃ」

罵られながら、侍は怒りもしないで、なお丁寧に、

「某は、春日新九郎殿――今では御曹子の新九郎と云わるる方に、以前一、二度お目にかかったことのある者、その御曹子殿のお身にかかわる、一大事を耳に挟んで参ったのじゃが、なんと報らせて上げてはくれまいか」

「えッ……」

お延は胸をギクリとさせたが、また疑わしく思い直して、

「その新九郎さんと、私が懇意だということを、どうしてまたお前さんはご存じなんですえ」

「今し方、扇屋の奥二階でチラとお見受け申したのじゃ。しかし、拙者の口から新九郎殿へ、直にはちと話し難い事情……女に絡んでいることゆえ、やはり女の口から伝えてもらいたい」

「え、女のことで? ……」

お延の眼が、たちまち嫉妬に燃えあがる。侍は呟くように、

「何にせよ、あの人には、他にも深い事情がらのある女がござってのう……」

胸に手を入れて案じ顔。

「なるほど、この人混みの中で、立話しのできないのはご尤も、どこへでも参りましょう」