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けんなんじょなん

剣難女難

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页

青空文庫

新九郎はまた、昔怖れた玄蕃を、今は眼下に見て、びくともしない。

「ここで会ったが百年目とはこちらから申す言葉だ。音無瀬川ではあの恥辱を、また恋の成らぬ意恨を含んで、正木作左衛門を闇討ちにした極悪人、千浪に代って、この新九郎が今宵の助太刀ついでにその首貰った」

「身のほど知らずの広言、見事参るか!」

「往生際に、生れ変わった新九郎の腕前を見知っておけ!」

「猪口才なッ」

と、玄蕃が大刀を抜きかけた瞬間には、もう、真眉間狙って、ぴゅッと飛んできた新九郎の居合の切ッ尖、雨の粒さえ割るかと見える来国俊に風が立つ。

「あっ」

余りに彼を侮って、抜きおくれた大月玄蕃は、鞘の走りも間に合わず、危うく、太刀先三寸の下をかわして、そのまま入身の横払い。

「えい!」

胴に入れば必ずや殺す、怖ろしい継身の太刀。

「何を」

と踏み開いて、横に描いた閃光の過ぎるや否、再び斬りつけ、斬りつけ、玄蕃の急く息を刻み込んだ新九郎の太刀、それはいよいよ小野派一刀流の鍛えに、自然の磨きと感得を加え、更に彼の天稟の冴えに研ぎ澄まされた名剣手、破門当時からくらべれば倫を絶した上達である。が、大月玄蕃、また正伝一刀流の達者、殊には老妙、いかに今の新九郎でも、そう、無下にはこれを斬って伏せることも難かしそうに見えた。