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けんなんじょなん
剣難女難
吉川 英治
「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页
その時、眼を移して七、八間離れたところを見ると、今しもこんがらとせいたかが、臂の久八、荒神十左、投げ槍の小六達に、三面を囲まれて、どうやら返り討になりそうな苦戦、こんがらもせいたかも刻々、掠り傷の痕を増して、炎を立てているような朱身となった。
提灯持ちの乾分は、事急と見て、逸早く、この場を逃げ出して、氷川下の深見重左へ変を告げに飛んで行ったらしい。
「わッ」
不意にそこから流れた絶叫。
捨身になったせいたかが手際よく、右側の荒神十左の片腕を斬ったのだった。――が、彼が荒神を斬った途端に、追いかぶさった投げ槍小六、重ね打ちに、三尺余りの大刀をふり下ろして、せいたかの肩から背すじにかけて、後ろ袈裟にばさりと斬り据えた。
「うーむ」
と虚空へ脇差を揮りかざしたまま、無残、せいたかは五体を弓のように折ってぶっ斃れる。
残るはこんがら一人と三人、どう贔屓目に見ても、早く、新九郎が玄蕃を片づけて、助勢に加わらぬ限りはこの勝負、到底こんがらに勝ち目はない。
折から、細かい宵の雨は、また霧のように霽れ上がって、柳の森の濡れた上へ、ぼんやり浮いた月の暈――その光りに、土手の道も仄白く見えだした二、三町先から、ここへ指してまッしぐらに駈けつけてくる黒い影。