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けんなんじょなん

剣難女難

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页

青空文庫

「ご免、ご免、ご免」

と、馴れたもの、人を人とも思わず掻き分けて来る。

そして、酔いつぶれている新九郎を駕へ入れ、垂れの外から細曳一本廻して、さっさとどこかへ行ってしまった。

群衆は何のことだと言いたそうに、思い思いに散って行く。と――その中に立って、

「忌々しい女郎め、横から出て思わぬ奴にさらわれてしまったわい」

と舌うちをして見送った者がある。

金襴をあざむく美々しい衣裳に白ぐけの羽織紐をさげ、面は朧富士の目堰笠につつみ、手には細い竹杖をついていた。それは山手組の頭領髯の重左。

「はてな、ことに依ったら今のも、いつか梅茶亭の戻りに新九郎を横奪りしたあの女郎かも知れぬ、む……」

深見重左はクルリと笠を廻して、連れている四、五人の武士の中から一人を※(「月+咢」、第3水準1-90-51)で招き寄せた。

「あれへ行く二人の女、どこへ入るか先の先まで見届けて来い。よいか、見届けたらすぐ氷川下の屋敷の方へ――待っているぞ」

「心得ました」

重左の片腕と頼まれている押田仙十郎は、素迅く人混みを縫い抜けて、今しも、石町通りから本町横へ外れてゆく二人の影を見え隠れに尾いて行った。