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けんなんじょなん

剣難女難

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页

青空文庫

「そこで、対手を怖れる訳ではないが、ちと公儀の大奥へ縁引きのある女、殊に屋敷は御上地のお船見屋敷だ、そこを打っ壊せば幾ら木偶の坊に等しい奉行でも、黙って見ている訳にゆくまい。で、この重左は、例の通り鎌倉の大安寺へ行って、しばらく保養をしているから、てめえたちも江戸から足を抜いた後、時折遊びに来るがいい、なあに、ほとぼりのさめるのは一年か一年半だわ」

後は酒になって、盃が巡廻りになる、随分急でもあるし、命がけの仕事にかかる前だが、至って落着きすましたもの、屋敷の金を残らず分配して各※(二の字点、1-2-22)肌につけ、そろそろ刀の目釘を改め、足拵えにかかっていると、頭領、重左は、例の竹杖を持って、駕に乗り、後は一同に任せて一足先に氷川下を出る。

彼の行く先は、この前、江戸中侠客狩りのあった時、二、三年身を潜ませていた鎌倉の大安寺で、まったく保養に行くぐらいな気持である。

重左が落ちてしまうと、さあ後は大変、氷川下の屋敷は野武士の陣屋のようになる、まだ時刻はすこし早いというので、酒をあおる、太刀を抜いて小手調べに柱を斬る、覆面や黒装束にとりかかる、まるで夜討ち仕掛けの有様、血に餓えている狼の舌舐めずりを見るようであった。