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けんなんじょなん

剣難女難

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页

青空文庫

七

は顔を見られぬように前列の者の肩に隠れていた。

「余が京極丹後である。遠路火急を促して大儀であった。当家の武名存亡にかかる大事じゃ、充分のほどを見せて欲しい」

関羽髯の浪人は、頭の高い会釈をして、

「あいやお言葉ながら、剣道は元来武名の誉れを賭け争い興を沸かせて観るべき物ではござらぬ、唯これ不壊に精神を練り一身の護りとすれば足るのでござる――がしかし、仙石左京之亮殿の外ならぬ頼み、ご懇望もだしがたく試合は仕るが、勝敗は時の武運あらかじめ勝つとはお引受け致し難い」

と膠もなく恬淡として云ってのけた。

七

乾坤一擲、二ツの木剣は広場の真っ唯中に組み置かれた。一方から静々と現われたのは扮装変らぬ春日重蔵、反対側から徐々と進み出たのは未だ名乗りを聞かぬ黒髯の武士だ。

二人は行きあった所で、きっと眼光を交わせた。

「あいや、某は京極殿の家中ではござらぬが、義によって試合申す、播州船坂山の住人鐘巻自斎と申す者、不鍛練なる富田流にてお相手致す、お見知りおき下されい」

と長髯の武士鐘巻自斎は、礼譲玄蕃の如き者の比でなかった。重蔵も会釈正しく、

「申し遅れました。拙者は直真蔭の末輩、春日重蔵と申す者、お手柔らかに……」