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けんなんじょなん
剣難女難
吉川 英治
「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页
大妻籠無極の太刀風
一
時には鳥獣を対手に技を試み、ある時は飛魚を狙って術の会得をあせる様子。何さま深い事情があるらしいが、心なき里の者は、ただ稀代な変り者もあるものだと嗤っていた。
ところが、つい近頃、変り者にまた一人の変り者がふえた。
それはこの木曾路を通りかかった江戸弁のいなせな旅人で、前からの知り合いか、妻籠峠で旅合羽を捨て、山稼ぎの馬子の群に入って、ひたすら行者の世話をして侍いている。
「あの変り者は兄弟かしら、それとも主従だろうか」
「いや、気狂い同士で気が合ったのだろう」
などと、里の噂にまた花が咲く。
が、行者は相変らず一心不乱、旅の者から馬子になった男も、日ごとに麓の立場へ来て稼ぎ、夜は五社明神の森へ帰って、行者に仕えること主の如くであった。
×
その日はちょうどジリジリ照りの土用太郎。
広瀬の宿から追分へつづく並木の蔭を、大股に辿って行く武芸者がある。丈は六尺に近く、涼やかな編笠に面を隠し、胸にそよぐ長髯は刀の鍔まで垂れていた。
と、すぐその後から、追い着くように急ぐ女二人の旅人。
「お、今、チラとこっちを見た姿容は、たしかにあの者でござります」