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けんなんじょなん

剣難女難

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页

青空文庫

「と仰っしゃったところで、会わせたいお方がここにいないでは、何もならないではござりませぬか」

「でもせめて、落ち着く先の居所だけでも聞いて、新九郎様にお知らせ申したいものでござります」

「さ、その新九郎様の行方は、こうして二人で尋ねている矢先、アアままにならぬもの……」

追い疲れたか、ホッと足を緩めていると、道中つきものの駕屋が、目ばやくこの美しい二人を見つけて群がった。

「もし、お女中がた、どうせ妻籠越えにかかるんでしょう。駕を使っておくんなさい。男なら馬もいいが、あなたがたじゃ駕より他にありませんぜ」

「要りません、麓の立場でゆるゆると休んだ上のことにする心算ですから」

「じゃ立場までやッて、息次ぎとしようじゃありませんか。オイ、早くもう一挺来い、乗って下さるとよ」

「これ、要らぬと申しているのに」

「要らねえたッて、大妻籠四里の山の中を、女の足で歩く訳にも行きますめえ。さ、乗っておくんなさい」

「うるさい下郎じゃ、そのような駕には乗らぬ」

「なに下郎だと」

「…………」

年上女らしい女は、口をつぐんで、クルリと後ろ向きになり、並木の風を入れている。

「やい、てめえは何様か知らねえが、下郎と言ったなあ聞き捨てにならねえ、さ、ここにいる仲間一同へ両手をついて詫びればよし」