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けんなんじょなん

剣難女難

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页

青空文庫

必ずとも一念にご出精あれば、天晴れなお手筋になられましょう」

「これは恥じ入るお言葉でござる。しかし、失礼ながら六部殿の唯今のお腕前、これも並ならぬお方とご推察致しまするが」

「いかにも、かかる姿でこれへ参ったも深い仔細のある儀でござるが、とにかくあれなる娘二人を助け返した上、ゆるりとお打ち明け致そう」

と、六部と新九郎は樹に縛られていた二人の娘をほどき、猿轡を解いて家へ帰させた。

「まずそれへお坐りくだされい。ここなれば人目もござらぬ……」

とその後で、六部は雑木林の中へ新九郎を導いた。そこには彼の笈が置き残されてあった。六部はその傍に坐って、

「実は何をお隠し申そう、拙者は亀岡の有馬兵部少輔の家臣、戸川志摩と申す者でござる」

と名乗った。新九郎はさもある人と頷いた。志摩は言葉をつづけて、

「そこもともお聞き及びであろうが、当地の斑鳩嶽に山荘を構えている雨龍太郎と申す奴、多くの浮浪人を狩り集めて、悪業至らざるなき風聞でござるが、とても代官などには取締りもつかず、主人兵部少輔と苦心の上、実は一策をめぐらして、かく拙者が姿を変え、きゃつらの様子を探りに参った次第でござる」