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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

05 一九三八年(昭和十三年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 229,387 字 · 453 页

青空文庫

そろそろ海水浴をしている人たちもあり。午後四時頃まで実に晴れ渡って、沖を宇部へ通う曳船が重く並んで通るのが見え、水無瀬島の方もよく見え、いい景色でした。水無瀬島と野原の浜とをつなぐ工事が起されるとかいうが、あれがすっかり囲われて重油が流れ出したらこちらの海も今日のように清澄ではなくなりましょう。松も枯れるでしょう。

十五夜らしいので、一つ浜の月見をしようと思ってね、大いに愉しんでいたのに、夕刻から風が荒く曇り出し、どうかしらどうかしらと云っている間にポツリポツリ当って来たので、それやれと仕度をして駅へ出たらひどい夕立が降り出しました。

小やみに八時十二分かの汽車にのったら島田へつくと、白い埃がたまってぬれてもいない。スーと暗がりから隆ちゃんが出て来て、皆が下げて持っているお重箱の空や何かを自転車にのせて行ってくれました。そのとき私は何ともいえずいい気持がして同時に、お母さんのお気持が判りました。達ちゃん、隆ちゃん、うちは皆男の子たちで、大きくつよく立派に成人している息子たちにかこまれている母の感情の中には、微妙にたよっているところがある。愛情のうちに、母が娘に対するのとは異ったたよりがある。