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さぶ
さぶ
山本 周五郎
「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页
十の四
おれは片意地で、ぶあいそうで、誰のために気をつかったこともなく、誰一人よせつけもしなかった。
おれは自分だけのことしか考えなかったのに、みんなはおれのために、日ごろは仲のよくない者までが力を合わせて、おれを助け出すためけんめいになってくれた。
――みんなの声は生涯、忘れないぞ、と栄二は声には出さずに叫んだ。まるで自分のきょうだいか子でもあるように、みんないっしょうけんめいだった。与平さんは泣いてくれたっけ、岡安さんもそうだ、これまでひねくれどおしだったこのおれは、さぞいまいましく憎ったらしいやつだったろう、だがやっぱりとんで来てくれた、――そうだ、それからさぶもだ。
十の四
どんなふうに治療がおこなわれたか、栄二はまるで知らなかった。なにがしとかいう外科医の調合した薬を使ったので、切開にも接合にもそれほど痛まなかったのだ、ということはあとで聞いたが、脛がすっかり麻痺していたことも慥かだったろう。――呼ばれて来た中島という外科医が手当てをするあいだ、栄二は夢と現実とがよくわからなかった。さぶやその他の知っている顔が、代る代る見えたり、二つも三つもの顔が重なったり、意味のよくわからない早口でどなる声が聞えたりした。