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さんごくし

三国志

吉川 英治

06 孔明の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 161,356 字 · 323 页

青空文庫

立春大吉

一

その黄承彦さえ、娘をやる時、

(われに一女あり、色は黒く、髪は赭く、容色はなけれど、才は君に配するに堪えたり)

と、断って嫁がせたというほどであるから、親でも自慢できなかった不美人だったにちがいない。

居酒店の前を通りながら、その俚謡を耳にした張飛は、玄徳へいった。

「どうです、あの謡は。およそ彼の家庭も、あれで分るじゃありませんか。新妻にあきたらないので、孔明先生、時々よそへ、美しいのを見に行くのじゃありませんかな?」と、戯れた。

玄徳は返辞もしなかった。満天の雪雲のように、彼の面は怏々と閉じていた。

立春大吉

一

年はついに暮れてしまった。

あくれば建安十三年。

新野の居城に、歳暮や歳旦を迎えているまも、一日とて孔明を思わぬ日のない玄徳は、立春の祭事がすむと、卜者に命じて吉日をえらばせ、三日の潔斎をして身をきよめた。

そして、関羽、張飛をよび、

「三度、孔明を訪れん」と、触れだした。

ふたりとも歓ばない顔をした。口を揃えて諫めるのである。

「すでに両度まで、駕を枉げたまい、このうえまた、君よりお訪ねあるなどは、あまりに礼の過ぎたるもの。それがしどもの思うには、孔明はいたずらに虚名を売り、実は内容のない似非学徒に相違なく、それ故、わが君に会うのをおそれ、とやかく、逃げのがれているものかと存じられます。