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けんきょうじゅなん
剣侠受難
国枝 史郎
「東京日日新聞」1926(大正15)年5月28日~11月14日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,479 字 · 394 页
人声もしなければ灯火もささない。で、ズンズン奥へ進んだ。やがて泉水の縁へ出た。風流の土橋がかかっている。石灯籠がともっている。泉水の向こうに館がある。そこまではい寄った早引の忠三、まずうずくまって物音を聞いた。月が館にさえぎられて、ここらあたりはほとんど闇だ。身を隠すには都合がいい。しんと屋内は静かである。忠三だんだん大胆になった。「ほんとうのおれの目的は、君尾という娘がいるかいないか、それさえ確かめればいいのだが、こう易々と忍び込めてみれば、ちょっといたずらをしたくなるなあ。泥棒心理というやつだろう雨戸をあけて内へはいり、間ごと間ごとを打ち通り、いずれ腰元もいるだろう、綺麗な寝顔を見てえものだ。ナーニおれは盗みはしない。あべこべに何か置いて来てやろう」で立ちあがるとピッタリと、雨戸へやもりのようにくっついた。とスルスルと開いてしまった。「これはどうだ、不用心だなあ。こんなことならおれにだって、本物の盗人が出来そうだ」開いた戸口からはいあがった。そこは長い廻廊である。忠三はいながら先へ進んだ。依然として館は静かである。と、廻廊が鉤の手にまがった。