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けんきょうじゅなん

剣侠受難

国枝 史郎

「東京日日新聞」1926(大正15)年5月28日~11月14日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,479 字 · 394 页

青空文庫

純な心

でも助けてはくださらなかった。……あの方どこにおいでだろう。……いいお月夜! 思い出すわねえ」

月の光に顔が浮かび、夕顔の花のように真っ白だ。眼のひとところだけキラキラと、露でもおりたか光っていた。涙というものに相違ない。

じっと見ていた早引忠三、「ううむ」とまずもって感心した。

「町の女とはまるで違う。なんといったらよいだろう? 野からうまれた阿魔っ子だなあ」

その時猿がキーとなき、忠三の方を指さした。

「どなた?」という女の声。

「へい」と忠三やみから出た。

純な心

とうとう目付けられた早引の忠三、闇の中から踏み出した。

「明るい晩でございます」トボケた調子で声を掛けた。

「ええほんとに、昼間のようね」無邪気な君尾の声である。

「あのどちらからいらしったの」

「へい」といったが返辞が出来ない。「よいお月夜でございます」

「鷺でも飛びそうでございますのね。……でも、どちらからいらしったの?」

「裏門からでございます」

「なんのご用でいらしったの」

「うん」とつまったが、「かまうものかひとつ、この娘をおどしてやれ。……お嬢様!」と恐ろしい声で、「あっしは大泥棒でございますよ」