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けんきょうじゅなん

剣侠受難

国枝 史郎

「東京日日新聞」1926(大正15)年5月28日~11月14日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,479 字 · 394 页

青空文庫

紀州家の心

「変心でござるよ。一目瞭然!」

「ううむ」とうめいたが由井正雪、いよいよ不安に堪えられないらしい。「そうとられるかな、貴殿においても」

「とりようがござらぬ。これ以外にはな」

「が、ただご短気と解しては?」

「甘い!」とばかりセセラ笑った。

「よりけりでござるよ、ご短気にもな!」

「とはいえ従来大納言家が、われらへ寄せられたご好意から推せば、そうひたむきに変心などと……」なお、正雪うべなわない。

「ということであってみれば、下世話の言葉にもなかなか身にしむ、金言というものがございますなあ」妙なことをいい出した。

「なんでござるな。下世話の金言?」正雪眉の間へしわをたたんだ。

「あばたがえくぼに見えるというやつ。アッハハハいかがでござる」笑いはしたが四辺を憚かり、時行の声は低かった。

「ほれ込んでいるといわれるのか?」正雪いやアーな顔をした。

「さようでござる頼宣どんにな! かれ老英雄、腹の知れぬご仁。貴殿トロトロとたらされております」

だがなお正雪眉をひらかぬ。凝然と時行を見詰めている。

「釈迦に説法とは思うものの、その釈迦さえも提婆には、いたしめられたためしがござる。