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けんきょうじゅなん

剣侠受難

国枝 史郎

「東京日日新聞」1926(大正15)年5月28日~11月14日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,479 字 · 394 页

青空文庫

待てば海路の日和とね」

「私にゃ難船が眼に見える」

お町、今度は返辞をしない。

「わがままでさあ、わがままですよ。ちゃんと膳立てをしてお招きした、あっしの苦心は買ってくれず、待てば日和は悠長ですねえ。それもさ、他人のためじゃねえ、みんなあねごのためですのにね。永い念願の巻軸が、すぐ手にはいるじゃありませんか。ちょっとおすがりしさえしたらね。……お母さんのうらみ、あねごの心外、そいつもまんざら知らねえじゃあねえが、まあまあそんなものはこの場合、そっとしまって置くんですね。……いけませんかね。どんなもので? ……オヤオヤ、なんだい泣いていらっしゃらあ! ははあ、お母様を持ち出したので、それで愁嘆なさるんですね。やり切れねえなあ。まるで赤児だ。オオ、よしよし泣くな泣くな! 禁物でげす、涙はね。あねごにそうやって泣かれると、どうやらあっしまで悲しくなる――とこういうといいんですが、実は反対にうれしくなるんで。というのは泣いたとたん、倍も綺麗に見えるんでね、緋縮緬よりなお素敵だ。全くあねごは変ですねえ。笑ってよく泣いてよく、それで怒ってもいいんですからねえ。あッ。