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けんなんじょなん

剣難女難

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页

青空文庫

武名競べ血飛沫鹿の子

一

武名競べ血飛沫鹿の子

一

生田の馬場の競べ馬も終ったと見えて、群集の藺笠や市女笠などが、流れにまかす花かのように、暮れかかる夕霞の道を、城下の方へなだれて帰った。

この丹波の国の年中行事となっている生田の競馬は、福知山の主催になるものであったが、隣藩である宮津の京極丹後守、出石の仙石左京之亮などの家中からも、馬術の名人をすぐって参加させるのが慣例であった。

その結果は、いつも小藩な福知山の城主、松平忠房の家臣から多くの優勝者を出し、もっとも大藩な宮津の京極家は、今年もまたまた一番無慙な敗辱を重ねてしまった。

常に大藩の誇りを鼻にかけて、尊大で倨傲な振舞のおおい京極方の惨敗は反動的に無暗に群集の溜飲を下げて鳴りもやまぬ歓呼となった。福知山の町人も百姓も許された皮肉と嘲笑を公然と京極方へ浴びせたのだ。こうして彼に多恨な春の一日は暮れたのである。

×

「だ、だ、旦那様ッ大変でございます」

とその黄昏に福知山の納戸頭正木作左衛門の玄関へ、こう喚きこんだ男は、娘の千浪の供をして生田の競馬へ行った仲間の五平であった。帰途を案じていた作左衛門夫婦は、声に愕いて出てみると、五平は肩先から鮮血を流して、乱鬢のままへたばっていた。