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けんなんじょなん

剣難女難

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页

青空文庫

轟――と闇をゆする峰颪しに紛れて、二つの影はあららぎ谷からいずくともなく走り出した。

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その夜山荘には、雨龍太郎が留守であった。彼は、面部の傷がいよいよ悩むので、外科医の療治を受けに、昨日山を降りたのである。それと大月玄蕃は、この山中も面白くないと見切りをつけたか、雨龍に暇を告げて前日ここを立ち去っていた。

留守を預かった洞門の権右衛門は前から、雨龍の妾お延に横恋慕していたので、今宵をまたとない機会と北叟笑んで、夜更けてからお延のいる部屋の橋廊下を越えて忍び込んだ。

すると、お延の部屋の薄暗がりから、両刀をぶッ違えに差した黒い影が、のそりと出て来て権右衛門とはたと行き会った。そして、

「何者だ」

と向うから激しく咎めてきた。

「てめえこそ何だッ。何しにうろついていやがるんだ」

権右衛門はそれに乗しかかって咎め返した。

「やッ、貴様は洞門じゃないか」

権右衛門はハッと思って透かして見ると、雨龍の甥で非常な腕ききなところから、投げ槍小六と異名されている郷士の一人であった。

「小六じゃねえか、留守を預かっている洞門の権右衛門が見廻って歩くに不思議があるか」