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けんなんじょなん

剣難女難

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页

青空文庫

すると、側にいた儀助が、

「じゃ、お侍様の代りに、わしが一つ出ますべえ」

と云った。十太夫は苦笑いして、

「そちは絶えて稽古に来たこともない男だが、多少は覚えがあるか」

とのっけから蔑していた。

「剣術はだめでがすが、槍なら行けます」

「馬鹿を申せ、刀槍は元これ一道より出たるものじゃ、神道流剣法より分派して樫原流の槍術となり本間派の管槍もそれから出ている。なかんずく宝蔵院の僧胤栄は上泉信綱の刀法の妙と、大膳大夫盛忠の長槍の心をあわせて宝蔵院流を編出したほどである。何で槍術の心得なき奴が槍など使い得るものではない」

「さあそんな小難かしい講釈は分らねえが、とにかく槍ならやれますだ。造作はねえ」

「はて文盲の野人は度しがたい者だ。よしそれほど剛情を張るなら試してやる。あ、これ、裏坂の仁作、この儀助を一つ懲しめてやれ」

「ようがす。さ儀助来い」

と骨たくましい若者が、

「竹刀では手ぬるい、木剣で行くぞ」

と構える。

「よいとも、汝が持つなら何でも同じだ」

と儀助は渡された稽古槍を突きつけたが、これはいかに修行の浅い新九郎の眼にも滑稽なほど、槍の構えにはなっていなかった。