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けんなんじょなん

剣難女難

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页

青空文庫

と真から驚嘆していた。新九郎は予測しなかった勝ちがむしろ自身で不思議に思えた。

と、そこへ怖る怖る出て来た高島十太夫は、最前と打って変った慇懃さで挨拶に来た。

「これは驚き入った唯今のご手練、如何なるご高名の方でござるか、願わくばお明しが願いたい。拙者は高島十太夫と申す者でござる」

「申し遅れました。元より拙者とても皆目の盲剣術、唯今のは怪我勝ちでもござろうなれど、ご挨拶でござれば名乗り申す。拙者は丹波福知山の浪人、春日新九郎と申しまする」

「さては福知山の? ……」

と聞くより十太夫は飛び退いてはっと平伏した。新九郎はくすぐられるようなおかしさを噛み殺していた。

「ではかねてご高名なる春日重蔵殿のご舎弟ではござらぬか。拙者も数年前にしばらく柳端のご道場にて重蔵先生のご指導受けた者でござる」

「ほほほう、それは不思議、兄重蔵をご存じの方でござったか」

「いかにも。して若先生は、これよりご城下へのお戻りの途次でもござりまするか」

「いやいや、拙者はお恥かしけれど、生来兄重蔵とは打って変って柔弱者でござったが、ちと心魂に徹することござって、翻然と心を改め、過ぐる頃より武術修行を思い立ち、これより日本国中のあらゆる名人達人を訪ずれて、教えを乞わんため家を出たばかりでござる」