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けんなんじょなん

剣難女難

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页

青空文庫

と云って、その構えに怯んだ訳では更々ない。彼は武芸者が他流試合を求める場合の作法や挨拶を考え浮かべていたのである。

「頼む――頼む――」

やがて彼は型の通り、玄関へこう訪ずれた。

「どなたでござる?」

と玄関へ出た取次は、修験の弟子かと見るに尋常の小侍であった。

「ああご修行の武芸者でござるか」

と小侍は新九郎の風体を見て、扱い馴れた口をきく。

「いかにも斯道の先生を尋ねて廻国致す者でござるが、当家のご高名を承って、一手のご指南に預かりたく推参致してござる。宜しくお執次のほど願わしゅう存じまする」

場馴れない新九郎は、廻りくどいほど丁寧に申し入れた。小侍は奥から取って返して、

「お通り下さい。ただし唯今師のご房には、奥にて勤行の折でござるゆえ、暫時これにてお控え下さい」

と待たされた所は道場を隔てた控え所、そこでやや小半刻も待っていると、

「他流試合を望まれた武芸者はそこもとか」

と声高に云いながらそれへ出て来た者があった。

「いかにも拙者でござりまする」

と新九郎はふと見上げると、額に兜巾をつけ柿色の篠懸を身にまとった、これこそ本物の修験者であった。

「ああ左様か――」