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けんなんじょなん

剣難女難

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页

青空文庫

涼風に灯を吹き消されたか、はためく草の中は真ッ暗であるが、中に蠢く三、四人の黒い影が、船を岸に着けると、すぐ総かがりで一人の女を抱き上げて来る様子。

「はてな……」

と新九郎は物蔭に身を潜めていると、浅瀬の水をザブリザブリと踏んで来る男の群は、必死にもがく女の力を押さえきれずに、岸へ着くとすぐ、どっかと猿轡をはめた女の体を抛りだした。

「こん畜生め、怖ろしい力を出しやがる」

と一人の男は、あたりに人影が見えないのに安心し、腰を下ろして一服という様子であった。

「おいおいお嬢さん。お前が幾らじたばたしたところで、男の腕から逃げられるものじゃあねえ。いい加減に往生しねえ」

「そうとも、大体親分が助けてやった命じゃねえか。いわば命の大恩人だ、そのお方の云うことをきかねえから、今までてめえにかけた入費の代りに、祇園へ売り飛ばしてくれるのだ。それが嫌なら親分の妾になれ」

「どうだいお嬢さん、ここらで考え直しゃあ間に合わねえこともねえ。うんと云って俺の云うことに従うか」

「畜生、まだ強情に冠りを振ってやがる。やいッどうだ」

と寄ってたかって声も得立てない女を、びしびしと苛んでいる有様、見兼ねた新九郎は前後を忘れてばらばらと躍り出した。