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けんなんじょなん
剣難女難
吉川 英治
「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页
六
「作左は見えたか」
「はッ唯今、お表まで出仕致してござります」
「そうか――」
とつと立って殿の廻廊を早足に、颯々と袴さばきして接見の間へ向って行った忠房は、その時僅かにはれがましい眉を開いていた。
「作左衛門、病中大儀であったの」
と褥に着座した忠房の声がかかって、正木作左衛門は平伏していた頭を僅かに上げた。如意輪寺裏で受けた数ヵ所の傷養生が、案外なが引いたので今日まで御殿に出仕しなかったのである。
「近う――」
と忠房は即座に彼を間近くさしまねいて、近侍を遠ざけた後、主従は何か永い密談に時を費やしていたのであった。
六
今訪れて来たばかりの、廻国修業武芸者矢倉伝内と名乗った男は、またたくうちに三、四人の門下を撃ち込んで、木剣片手に道場の中央に突ッ立ったまま、更に次の相手を促していた。
そこは福知山柳端の、直真蔭流春日重蔵の町道場であった。折悪く高弟二、三の達者が居合さなかったので、次には重蔵が自身、矢倉伝内の対手に立たねばならない順になった。
「お見事でござった。この上は春日重蔵がお対手申す――」
と身仕度を整えて木剣をとった。
「望むところ、お手柔らかに」