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けんなんじょなん

剣難女難

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页

青空文庫

三

「ああどこまで千浪殿とも兄上とも、縁のうすいこの身であろう……ここまで来て会わずに帰るも残念、と云って、このまま行く雲をおうような旅もつづけられず」

茫然と路傍に立った新九郎は、疲れた体を進める道に迷っていた。と、里の者らしい人々が此方へ来た。新九郎はその人達を見ると、また一縷の未練をつないで、およその風姿恰好を話し、この街道でそれらしい人を見かけなかったかと訊ねてみた。こうして訊ねる言葉も、今日一日で幾十遍くり返したことであったか知れない。

「そうさのう……」

百姓らしい男は、しばらく小首を傾げていたが、何か思い当ったように、

「む、お見かけ申しましただよ。あの人たちに違いなかんべい」

と新九郎の胸をどきッとさせた。

「それもたんと前のことじゃあねえ、つい今し方のこッてがす。小淵の不動院の林から、この街道の先へ出る抜け道を、ぶらぶら行かしゃったお二人づれの虚無僧がありましただ」

「おお、それじゃそれじゃ! して二人の者は、この街道をどう向いて参ったであろう」

「あの抜け道を行けば杉戸へ出るのでがす、その先はずッと幸手まで宿屋がごぜえませんから、きっと夜道をかけるつもりでがしょう。