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けんなんじょなん
剣難女難
吉川 英治
「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页
五
そして、長い並木も短く思えて興に吾を忘れてくると、突、寸善尺魔、闇を切って飛んできた投げ槍の禍い――
………………
大之進から、こうつぶさに話されたので、新九郎は己れの姓を名乗り、身の上の一端を明かさなければ悪い気がした。やがての後、二人は不動院を叩いて、老院主に顛末を話し、近所の百姓の手を借りて六太夫の空骸を埋葬した。
事の行きがかり上、新九郎はその最後まで大之進に力を添えていたので、遂に、重蔵の後を追いつくことは、一時諦めなければならなかった。
五
武者窓から痛い氷雨が吹き込み、木剣から火をほとばしらせる冬が来た。
凜烈肌を破る寒気こそは、人を火の如く真剣にさせる。冬の道場こそは、木剣を持つ手から、血も吹きこぼれ、五体からは焔も立つ、真に剣道へ精進する侍ばかりが、厳冬氷のような研磨の床に雄叫ぶさまは壮絶の極みである。
ここは小石川大曲の小野忠雄の道場。そして門弟三千と称されている中の最下級に、春日新九郎も半年前から名を連ねている。
ここへ入門の世話をしてくれたのはかの夏目大之進で、生不動与兵衛とも無論了解の上であった。
新九郎は初めて名師に会った感謝に充ち、修行の一道に邁進したが、何せよ格式の高い将軍家の指南道場、新九郎のような末輩は、時たま試合の陪観を許されるの他、滅多に道場の床に立って高足の教えを