轻松读懂日语经典作品
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けんなんじょなん
剣難女難
吉川 英治
「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页
乞うようなことはできなかった。
それのみならまだしも、玄関式台の拭き掃除、訪客の取次、荷担で水汲む類の業まで、仲間たちと一緒にやるのが門僕の掟であった。
「アー冷たい……」
氷柱のような縄釣瓶で、井戸から荷担へ水を汲み込んでいた新九郎は、馴れぬ業にヒビあかぎれとなった両手を口へ当てハーと息を吹きかけていた。
ポン、ポン、ポン。あちらで手を叩く音がする。新九郎はハッとして、
「おお師範代がお眼ざめになったらしい。ただの召使根性のようなこのざまを見られては恥辱」
胸にこたえて荷担の天秤へ肩を当てた。
短い革袴に稽古着一枚、これがその昔、孔雀のような振袖姿を、春風に吹かせて歩いた新九郎かと思えば涙ぐましくもなる。
危うげな足どりで、やっと勝手の水瓶の前まで担いで行くと頭の上から、師範代の梶新左衛門が、
「横着者めが、なぜ水をきらしておくのじゃ、とッとと顔を洗う水を汲んで来い」
寝起きの不機嫌に任せて呶鳴りつけた。
「いつにないお早いお眼醒め、まことに不覚を致しました。唯今すぐ……」
脚高の盥へなみなみと水を張って、新左衛門の前へ捧げて行くと、
「えいッ」
不意に気合をかけられた新九郎は、あッとおどろいて飛び退いたが、もう、頭から盥の水をザーッと全身に浴びせられていた。