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けんなんじょなん
剣難女難
吉川 英治
「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页
三
「片腹痛い身のほど知らずめ」
「いやよい気味だ、よい見せしめじゃ」
鐘巻自斎が小野忠雄の門から飄然と出て行くと、門下の大衆も、ただ一人の新九郎に、八方から罵詈嘲笑を存分に浴びせかけて、思い思いに退場して行った。後にたッた一人取残された新九郎は、板敷の隅に蒼白い面を伏せたッきりで、じっと、あらん限りの苛責と無念とを怺えていた。すると誰やら、
「おい新九郎。おい!」
と、権柄高く呼ぶ者がある。ふと顔を上げてみると、広い道場に残っている者は、いつか自分一人と、そして、目の前に梶派一刀を工夫した梶新左衛門が、怖ろしい眼に険を立って睨み据えているのみだった。新九郎は初めて吾に返った様子で、
「おお梶様でございましたか、面目次第もござりませぬ」
と、彼の足もとに両手をついた。
「ばか野郎!」
新左衛門の面罵は例に依って痛烈、更に仮借がない。
「貴様ばかりは、多少見込みのある奴と思っていたが、いやはや呆れ果てた呆痴者、対手もあろう、場所もあろうに、忠雄先生さえ一歩を譲って、畏敬されている鐘巻自斎殿にかかって、今の態は何事だ」
「ご立腹はさることながら、それには段々と深い仔細があることでござります」