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けんなんじょなん

剣難女難

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页

青空文庫

四

「えッ、あの丈夫な与兵衛殿が?」

「いくら達者な親分でも、暗殺に遭ったんですからどうしようもございません。その経緯も話してえが、こんな所で立ち話はできねえし、どこかそこらまで、ご一緒にと云いてえところだが、貴方もやっぱりこの道場でご修行のお体、そう身儘にもなりますまいなあ」

「ところが、面目次第もない話でござるが、拙者は今日限りこの道場から破門をうけました……」

新九郎は悄然として云った。そして、掻いつまんだ理由を話しながら、二つの笠の間に挟まれて、何処へ落ち着く目的もなく歩きだした。

四

いつか夕暮となっていた。旅扮装のこんがらとせいたかは、新九郎の身の上を聞きながらぶらぶらと本郷台へかかって来た。そこから見ると、浅草川を中心に下町の灯がチラチラと美しく眺められた。

「あ、いけねえ、道を曲がろうぜ」

「どうしたんだ」

とせいたかが笠のつばを押さえて前後を見廻した。

「笊組の用心棒金井一角と二、三人の三下が彼方から来やがった。ここで見つけられちゃ面倒だ」

「そいつあまずいや」

二人ともプイと左の坂道を急ぎ足に降りだした。新九郎は密かに怪しんだ、生不動の両腕と云われて押しも押されもせぬ達者が、何で笊組の用心棒などに道を避けなければならぬのだろう。